

木の椅子に座る。
木の床を歩く。
木の箸でごはんを食べる。
毎日当たり前に触れている木ですが、「木を触って感電した」という話は、ほとんど聞きませんよね。
でも考えてみると、木は自然の中に立ち、雨にも濡れ、雷にもさらされる存在。
それなのに、ふだんは電気を通さない素材として扱われています。
木は金属と違い、電気が流れるための条件をほとんど満たしていない
この点が、すべての出発点です。
この記事では、木とはそもそも何なのか。
順を追って、わかりやすく見ていきます。
|
|
|

セルロース(木材の主成分)の化学構造
木の繊維を形づくる多糖の鎖構造を示す。
乾いた木が電気を通しにくい背景。
出典:『Cellulose-2D-skeletal』-Photo by Slashme/Wikimedia Commons Public domain
まずは、木という素材の正体から、落ち着いて整理していきましょう。
「自然素材」
「硬いもの」
「燃えるもの」
──このあたりのイメージだけだと、木と電気の関係は、ほとんど見えてきません。
木は一見、均一でどっしりした固体に見えますが、中身をのぞくと、かなりクセのある構造をしています。
木は「ひとかたまりの物質」ではなく、空間を大量に含んだ集合体です。
木は、一本の塊のように見えて、実際には無数の植物細胞が積み重なってできた素材です。
それぞれの細胞は、箱のような形をしていて、その壁は主にセルロースという高分子で構成されています。
このセルロース、電気の観点から見ると、かなり絶縁体寄りの素材。
さらに重要なのが、細胞の中身です。
細胞の内部や、細胞と細胞のあいだには、 空洞や微細なすき間が無数に存在しています。
ぎっしり詰まった固体ではなく、中は意外とスカスカ。
この「スカスカ感」が、電気にとっては非常に重要な意味を持ちます。
もう一つ、木を語るうえで欠かせないのが、状態による違いです。
同じ木でも、切りたてで水分を多く含んだ生木と、時間をかけて水分を抜いた乾燥木材では、性質が大きく変わります。
特に電気の話になると、この違いは決定的。
木そのものよりも、 中にどれだけ水分を含んでいるか。
これが、電気を通しやすいかどうかを左右します。
木は、素材だけを見て判断できる存在ではありません。 「何が染み込んでいるか」まで含めて、木なんですね。
木は均一な固体ではなく、細胞と空気、そして水分を含む複雑な構造体だと捉えると、電気との関係が見えやすくなります。
では、ここからが本題です。
なぜ木は、あれだけ身近な素材なのに、電気に対しては意外なほど鈍感なのでしょうか。
答えはシンプルですが、中身をきちんと見ると納得感が出てきます。
ポイントはやはり、 電子が動けるかどうかです。
電気が流れるためには、電子がある程度自由に移動できる必要があります。
金属では、電子が原子からゆるく束縛された状態で存在し、電圧をかけるとスッと動き出します。
一方、木を構成しているのは、セルロースやリグニンといった有機高分子。
これらの分子では、電子は原子同士の結合にがっちり固定されていて、勝手に移動できる余地がほとんどありません。
金属にあるような
「電子が走るための通り道」
そんなものは、木の中には用意されていないんです。
電子が自由に動けない構造では、そもそも電流という現象は生まれません。
これが、木が基本的に絶縁体として扱われる、もっとも根本的な理由です。
ただし、木の電気的な性質には、大きな条件がつきます。
それが、 どれだけ水分を含んでいるか。
乾燥した木材の中では、イオンが移動できる水分がほとんどなく、電気は途中で完全に足止めされます。
そのため、乾いた木は非常に電気を通しにくい。
一方で、 濡れた木や生木になると話は変わります。
細胞のすき間に水分が入り込み、その中にイオンが存在すれば、条件次第で電気が流れてしまうこともある。
つまり、木が電気を通さないのは、素材そのものが万能だからではなく、 「乾燥した状態」が保たれているからなんですね。
木が電気を通さないという性質は絶対的なものではなく、乾燥した状態で成り立っている条件付きの特性だと理解するのがポイントです。

木製電柱と碍子が支える架空配電線
乾いた木柱が導線を支え、碍子と合わせて地面への漏れを抑える。
出典:『Power Lines, Dingle Peninsula, Co. Kerry, Ireland』-Photo by Maoileann/Wikimedia Commons CC BY-SA 4.0
こうした性質を活かして、木はかなり昔から、電気や熱と付き合う現場で実用に使われてきました。
最新素材のような派手さはありませんが、 「条件が合えばちゃんと役に立つ」。
木は、そんな実直なポジションの素材です。
木は完璧ではないからこそ、使いどころを見極めて活かされてきた素材です。
ハンマーや斧、ドライバーなどの工具。
その柄の部分に、昔から木が使われてきたのには、ちゃんと理由があります。
それは、 手に電気や熱が伝わりにくいという性質。
金属の柄だと、感電や火傷のリスクが一気に高まります。
一方、乾いた木材であれば、電気も熱も、手元に届くまでにかなり弱められる。
もちろん、木はゴムやプラスチックのような
完全な絶縁体ではありません。
それでも、作業時のリスクを下げるという意味では、非常に理にかなった選択だったわけです。
今でこそ、電柱や送電設備といえば、コンクリートや金属、セラミック製の碍子が当たり前ですが。
かつては、こうした設備の一部に 木材が使われていた時代もありました。
理由はシンプル。
当時の技術水準を考えると、木は扱いやすく、現実的な選択肢だったんですね。
ただし、時代が進むにつれて、状況は変わりました。
現在では、 プラスチックやセラミックといった、性能が安定した素材が主役です。
木はというと、どうしても 乾燥状態を維持し続けるのが難しい。
湿気を吸えば、電気的な性質は一気に変わってしまいます。
そのため、現代の電気設備では、木はあくまで
補助的、限定的な立場にとどまっています。
木は万能な絶縁体ではありませんが、条件が整った環境では、電気と人とのあいだに距離を作る素材として今も理解され続けています。
木が電気を通さない理由は、自然素材だからでも、偶然でもありません。
電子が動けず、水分が少ない構造をしているから
それが答えです。
ただし、濡れた木は別物。
この一点を忘れると、安全の前提が崩れてしまいます。
木は頼れる素材ですが、電気の前では「状態しだい」。
その性質を知っておくことが、いちばんの安全対策なのです。
木が電気を通さねぇのはよ、電子が動けねぇ分子構造だし、乾燥してりゃイオンもいねぇからなんだぜ。ただし濡れてるときゃ電気を通すこともあるから、そこは気をつけろよ、覚えとけ!
|
|
|
